世界を走り倒す旅行記 1

自転車による五大陸走破ラウンド1

カナダの出来事 : 爪痕

with 2 comments

ブリティッシュコロンビア州のコールリバーという街にて。
街といっても、サービスステーションがひとつあるだけ。売店、レストラン、キャンプ場、モーテル、GSをまとめて営業している。僕が見た限りでは、従業員は4人だけだった。とすると、この街の人口は4人ということになる。
 
従業員のひとり、ブライアンは僕を大いに歓迎してくれた。こんなさびしい所では、客が来たらうれしいというのはわかるが、それにしてもテンション高い。カナダ人というよりはアメリカ人のテンションに近い。
 
彼は周辺をガイドしてくれた。仕事としてではなく、単なる散歩だ。
鳥や植物の名前を教えてくれた。
コールリバーと呼ばれる川の岸には、バッファローの足跡があった。
「バッファローはめちゃくちゃ強いんだ。時にクマを殺すんだぜ。」
オオカミの足跡もあった。オオカミは地元の人でもめったに見ないらしい。遠吠えは聞こえるらしいが。
彼は足跡をみつめて、
「昨日だ。」
と言った。本当なのかどうか、僕には確かめようがない。
 
この辺りでは、やはりクマの話題が一番盛り上がる。
「ここから60km離れた所に住んでいるジイさんは、クマに片目をつぶされ、肩を食いちぎられた。でもまだ生きている。」
「幼い兄妹が森の中でクマに襲われて死んだ。発見された時、妹の方は首から上がなかった。」
ブライアン自身も、森の中でクマに追われ、木の上で二晩すごしたことがあるらしい。(←本当かなあ)
 
こんな大自然に囲まれていると、つい1ヶ月前まで東京にいたことが不思議に感じられる。
僕はブライアンに東京の話をした。数分も歩けば24時間のコンビニがあり、自販機があり、満員電車の中では身動きひとつとれない、などなど。彼はひとつひとつに驚いていいリアクションをしてくれた。
「もし日本に行ったら、皆オレに話しかけてくれるかな?」
「話しかけないよ。」
「なんでだ?」
「さあ。」
 
道路をはさんだ向かいに、小高い丘があった。夕方、そこに登ろう、とブライアンが言い出した。彼は週に4回はその丘に登って空想にふけるらしい。
丘はそれほど高くはないが、人が登れるように整備されているわけではなく、獣道もないので、木や草をかきわけて歩くことになる。ブライアンは子供のようにはしゃぎながら、すごいスピードで駆け上がっていく。どうでもいいけど、こいつ仕事しなくていいのか?
彼にだいぶ遅れて頂上に着いた。見晴らしは素晴らしかった。だが、そこから眺めた景色に僕は素直に感動できなかった。無限に広がる針葉樹林の中に、僕が通って来た道、これから行く道、そしてコールリバーのサービスステーションが、異様に不自然に見えたのだ。これらは無残に森林伐採してつくられた人間の爪痕だ。僕は大自然に囲まれていい気分になっていたが、自然の方からしてみればいい迷惑だろう。でも、この爪痕がなければ、僕の旅自体も成り立たない。これは当たり前で仕方のないことだが、旅を始めてから今まで、それを意識せずにいた。妙に恥ずかしくなった。おびえながら道路を横断するクマや、車に轢かれたムースの死体を思い出した。罪の意識なくして、純粋に旅を楽しむことなんてできないなと思った。
ブライアンは何を思いながらこの景色をみつめていたのだろうか。
 
 
ブライアン
Brian
 
バッファロー
buffalo
 
オオカミの足跡
 footprints of a wolf
 
ブラックベア
black bear
 
丘の上から
from the top of a hill
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Written by Ryo

2008年2月5日 @ 12:35 午後

カテゴリー: 出来事

2件のフィードバック

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  1. ブライアンいい人ですね!!:D
    やっぱりこういう出会いも楽しさの一つかな☆
    あとくまの話恐いですね(>_<;)ほんとかどうかわかんないけどw
    確かに東京に行っても誰も話しかけないですよね。。。
    ブライアンが東京に来たらどう思うんだろう。。。(-_-;)
    なんだか本を読んでるような気分です。
    本当に考えさせられる内容ですね~。
     

    Chihiro

    2008年2月5日 at 7:01 午後

  2. やはり人との出会いも自然を感じることも、いいものです。
    僕は早くも日本に順応しつつあります。
    知らない人には話しかけないし、自然を感じることもありません。
     

    Ryo

    2008年2月6日 at 11:57 午前


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