コスタリカの出来事 : つかまる 後編
僕たちはブーブー文句を言いながら、警察署に連れて行かれた。
壁に手をつけさせられ、凶器を持ってないかチェックされた。
屈辱的。
ポケットの中身も財布の中身も、所持品すべてチェックされた。クスリがないか確かめるために匂いをかいでいる姿はなんともアホらしかった。
取り調べの最中、例の警官がまた「チノ」という言葉を発した。ジュン君がまたキレた。
「チノって言うな!日本と中国は違う国なんだよ!おまえらだって、ニカラグア人とか言われたら嫌だろ!」
まあまあ、そう怒らずに。
それから、なんだかわからないが、国際的な警察機関に電話して、僕たちが指名手配中でないか、あるいは前科がないかなどを調べているらしく、それが終わるまではパスポートを返してくれないという。これが時間かかった。
待機中、近くのベンチに4~5人の警官が座ってしゃべっていたので、ジュン君が色々と質問していた。
「おまえら、なんでオレたちを捕まえたんだ?」
「外国人だからだ。」
「おまえら、なんでここでくっちゃべってんだ?ヒマなのか?」
「そうだ。オレたち、ヒマなんだ。」
「働けよ!」
腹減った。もう辺りは暗い。いつもだったら、メシも食い終え、シャワーも終え、ベッドに寝っ転がって、一番リラックスしている時間のはずだ。なのに、このくだらない取り調べのために、まだメシも食えていない。
イライラしてきた。僕は例のイヤな警官に聞いた。
「あとどんだけかかるんだ?」
「あと30分だ。」
「30分も!?もっと急げよ。腹減ってんだ。」
ジュン君はすっかり警官たちと打ち解けて話しこんでいた。僕はそれに加わる気にはなれなかった。イライラを抑えるので精一杯だった。
30分後。
「おい、30分たったぞ。早く解放しろ。」
「まだだ。あと15分だ。」
「いいかげんなこと言いやがって。このウソつきめ!」(←日本語)
署の向かいに、サッカー場があるらしかった。
「仕事が終わったら、皆でサッカーやるんだ。おまえらもやるか?」
「アタマおかしいんじゃねえの?」(←日本語)
いつのまにかジュン君より僕の方がキレてきた。僕と彼とでは、怒るポイントがだいぶ違うらしい。
若い警官が一人やってきた。状況を知らないそいつは僕たちに親しげに話しかけてきた。
「これからサッカーやるんだ。君たちも一緒にやろうぜ!」
僕は思わず立ち上がった。周囲の警官は、僕が暴れだすと思ったのか、身構えた。
なんとか怒りを抑えて座った。
結局、解放されたのは署に着いてから2時間もたった時だった。
当然ホテルまで送らせた。
ホテルに着き、部屋の外で、二人で静かにスパゲティをゆでた。
「リョウさん、まだ怒ってますか?」
「いや、怒ってないよ。もう解放されたわけだし。ジュン君は?」
「怒ってないですよ。言いたいこと言ってやりましたから。」
彼はどうやら、言いたいことを言ってしまえば気がすむタイプのようだ。
僕はどうやら、束縛状態から解放されれば気がすむタイプのようだ。
「オレが最初に、チノって言われてキレちゃったからこんなことになって。リョウさんに迷惑かけちゃったみたいで、すみません。」
「いやいや、悪いのは警官であって、ジュン君は少しも悪くないよ。それにしても、もし今日、別々に行動してたら、ホテルで待ってる方はメチャクチャ心配してただろうな。」
数日後、僕たちはペースとスタイルの違いから、別れることになる(仲が悪くなったわけではない)。
その後もずっとメールのやりとりをしているのだが、なんと彼は、今もまだ旅を続けている。現在はボリビアのアマゾンでピューマの訓練士をしているそうだ。彼がウシュアイアにたどり着くのは、一体いつになることやら。
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