世界を走り倒す旅行記 1

自転車による五大陸走破ラウンド1

メキシコの出来事 : 国境

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メキシコ入国前、僕は少々ビビッていた。出発して約4ヶ月、すでに1万2千km近くを走り、海外走行にもだいぶ慣れてきてはいたが、それはあくまで先進国での話。これからいよいよ後進国へ突入する。だがメキシコという国に関しては、あまりいい噂を聞かなかった。
「メキシコ人は何でも盗むぞ。自転車を盗られないように気をつけな。」
「大気汚染がひどいよ。ほとんどの旅行者は気管支炎になる。」
「不衛生だから、水は飲まない方がいい。」
さらに、メキシコ料理=辛い、というイメージがあった。僕は辛いものをまったく食べることができない。
もうこの先は快適な旅はできないかもしれない。
僕は入国前夜、偉大なるアメリカが生んだ最高傑作、ココナッツクリームパイをワンホールたいらげた。さらばアメリカ。
 
翌朝、いざメキシコに入国した。
 
・・・世界が、変わった。
 
建物、店、道路、交通、人種、言葉、音楽、空気、経済水準。すべてが一気にガラリと変わった。別世界。呆然としてしまった。自然環境は少しも変わってないはず。人間がつくったラインをひとつ越えただけで、こうも変わるものだろうか?僕はその後何度も国境越えはしたが、こんな劇的な変化は他にはなかった。
 
国境の街、マタモロスをウロウロしていると、次々に話しかけられる。
「アミーゴ!どこから来たんだ?」
「アミーゴ!どこへ行くんだ?」
「アミーゴ!何を探してるんだ?」
まだこの時はスペイン語がサッパリだったが、皆純粋な友好心あるいは親切心で話しかけてくれるということは伝わってきた。
なんだ、いい人たちじゃん。
 
買い物や食事は苦労した。僕は日本である程度スペイン語を勉強しておいたのだが、すっかり忘れてしまっていた。最低でも食べ物の名前と数字ぐらいはスラスラ言えるようにならなければならない。
やはり英語は通じない。自転車屋でチューブを買う時、「チューブ」と言ってもまったく通じなかった。
 
マタモロスで1泊し、翌朝出発した。街を離れるとすさんだ荒野が現れるが、それでも売店が点在している。店の前で立ち話しているオッサンたちが口笛を吹き、「アミーゴ!」と叫んで僕に手を振る。中米人は口笛がとてもうまい。指を使わずに大きな音を出す。僕は自転車を停め、ドリンクを買う。そしてまた、「どこから来た?」「どこへ行く?」と質問攻めされる。次第にその店の家族全員が集まって僕を包囲し、物珍しそうな目でジッと凝視する。僕がデタラメなスペイン語で何か言うと、ゲラゲラ笑う。なんだかわからないが踊りだす人もいる。面白い人たち!
 
20kmほど進んだ所で、検問所のような建物が現れ、パスポートの提示を求められた。係員は初歩的な英語をしゃべれるようだった。彼は僕のパスポートを見て信じられないことを言った。
「入国の手続きをしてないね。ここから先は通れないよ。」
「は?何言ってんの?そんなばかなはずはない。」
いや、でも、そういえば国境を越える前、アメリカ側で手続きをしたが、メキシコ側では何もせずにすんなり通れたのでちょっと気になってはいたのだ。アラスカ→カナダの時も、カナダ→アメリカの時も、手続きは一度で済んだ。だから、アメリカ側で出入国の手続きをまとめてしてくれたと解釈していたのだが、出国の手続きしかしてなかったということか。
「どうすりゃいいの?」
「国境まで戻ってちゃんと手続きしてきな。」
「え~???なんで~???」
「法律でそう決まってるんだよ。」
「いや、そうじゃなくて、なんでここで言うかな。国境で言ってくれよ。」
「・・・・・・」
 
自転車で20km戻るというのはかなりかったるい。でも仕方ない。僕はまた国境に戻った。
たしかにメキシコ側には入国管理所があった。だが看板もなく、人に聞かなければ絶対わからないような目立たないものだった。
結局、マタモロスにもう1泊することにした。通りすがりの人にこう言われた。
「ちゃんと入国の手続きしたかい?たまに手続きせずに検問所まで行って突き帰されるバカがいるんだよ、アミーゴ。」
うるせえっ。たまにそういう人がいるんだったらもっとわかりやすくしとけ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Written by Ryo

2008年2月27日 @ 3:56 午後

カテゴリー: 出来事

3件のフィードバック

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  1. また戻るなんてめんどくさいですね~(-_-;)
    今まで何回か通れない人がいたんだったら
    ちょっとした看板でもたてればいいのに XD

    Chihiro

    2008年2月28日 at 1:31 午後

  2. アミーゴ!!

    マホッチ

    2008年2月28日 at 6:04 午後

  3. CHIHIROさん
    そもそも入国できちゃうことがおかしいですよね。
    今となってはこれも思い出ですが。
     
    マホッチさん
    メキシコは都市部と地方ですごくギャップがあります。
    メキシコに行ったらぜひ田舎にも足をのばしてみてください。
    プロレスはよくわかりませんが、よくポスターが貼ってあるのを見ました。
     

    Ryo

    2008年2月29日 at 5:52 午後


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